借金で給料や預金が差し押さえられたときは、まず対象が給与なのか、銀行口座なのかを命令書で読み分けてください。給与には差押えできる範囲の制限がありますが、預金に同じ「4分の1」の計算を使うことはできません。
届いた書類が「債権差押命令」なら、封筒を含めて保管し、発令した裁判所の担当係と弁護士へ早めに連絡します。生活費が足りなくなる場合には、差押範囲変更の申立てを検討できます。ただし、相談や申立てだけで執行が止まったり、口座のお金が戻ったりするわけではありません。
この記事は、貸金やカード代金などの民事上の借金を対象にしています。税金の滞納処分や、養育費などの請求では扱いが異なります。通知の差出人と請求の種類から分けて読み進めてください。
1.差押命令のどこを読むか

命令書の本文だけでなく、末尾の「目録」も開きます。裁判所へ電話するときは、次の欄を手元の紙に転記しておくと事件を特定できます。分からない欄は空欄のままで構いません。
| 読む場所 | 書き出す内容 | 何に使うか |
|---|---|---|
| 表紙・命令書 | 裁判所名、担当係、事件番号、受け取った日 | 問い合わせ先と手続の特定 |
| 当事者目録 | 債権者、自分の氏名、第三債務者 | 請求者と差押先の特定 |
| 請求債権目録 | 元金、利息、遅延損害金、執行費用、元になった判決等 | 請求額と支払済みの記録の比較 |
| 差押債権目録 | 給与の勤務先、預金の銀行・支店、対象額・範囲 | どこからどの範囲が差し押さえられたか |
| 同封の案内 | 申立方法、連絡先、記載された期限 | 次に取る手続と提出先の把握 |
ここでいう「第三債務者」は、あなたに給与を払う勤務先や、預金を払い戻す銀行です。勤務先や銀行が、あなたの借金を代わりに負担するという意味ではありません。
給与の差押えは勤務先への、預金の差押えは銀行への命令の送達で効力が生じます。自分が封筒を開けた日が効力の発生日とは限りません。給与担当者から先に連絡を受けたり、口座の利用で異変に気付いたりした場合も、事件番号と命令書の写しを入手して相談へ進めます。
返済済みの分が反映されていない、別人の請求に見えるときは、振込明細や領収書も残します。裁判所の所在地・電話番号は裁判所公式サイトでも照合できるため、不審な番号だけを頼りに送金しないでください。
2.給料はどこまで差し押さえられるか
一般の借金について、月給の差押額を考える際は、基本給と諸手当から通勤手当を除き、所得税・住民税・社会保険料を引いた残額を使います。東京地方裁判所の給与差押え案内も、この計算方法を示しています。給与明細の「総支給額」や銀行への振込額を、そのまま4で割る方法ではありません。
この残額が月44万円以下なら原則4分の1、44万円を超えるなら33万円を引いた額が差押えできる範囲になります。裁判所による範囲変更などがない通常の月給について、計算すると次のとおりです。
| 上記の控除後の月額 | 計算 | 差押えできる額 | この月額のうち残る額 |
|---|---|---|---|
| 20万円 | 20万円×1/4 | 5万円 | 15万円 |
| 30万円 | 30万円×1/4 | 7万5,000円 | 22万5,000円 |
| 44万円 | 44万円×1/4 | 11万円 | 33万円 |
| 50万円 | 50万円−33万円 | 17万円 | 33万円 |
これは計算方法を示す仮例です。実際の差押額は命令書で指定された債権・費用の範囲にも限られます。例えば、控除後30万円でも、回収すべき残額が5万円なら、この命令によって7万5,000円を回収できるわけではありません。表の「残る額」に、計算から除いた通勤手当などは含めていません。
養育費などを請求する差押えは、通常の借金と違い原則2分の1まで対象となる扱いがあり、月給の基準も変わります。賞与・退職金、複数の差押命令、税の滞納処分がある場合も、この表だけで判断せず、命令書と給与明細を相談先へ提示してください。
一度の給料で終わるとは限らない
給与のように継続して支払われる債権の差押えは、請求債権と執行費用の額を限度に、その後に受け取る給与にも及びます。毎月いくら残るかに加え、どの月から控除されるか、勤務先が計算した額、回収された累計を給与担当者から聞き、明細を保存しましょう。
差押命令は勤務先にも届くため、給与担当者にまったく知られずに進む仕組みではありません。社内での相談は、給与を処理する担当部署などに絞り、命令書の記載と給与計算の事実を伝えます。転職すれば債務が消えるわけではなく、未払いの給与・退職金が残る場合もあります。退職や勤務先の変更は弁護士にも伝えてください。
3.預金の差押えには「4分の1」を当てはめない
銀行口座の残高に対する差押えでは、給与を勤務先から受け取る権利と、銀行に預金を払い戻してもらう権利を分けて考えます。給与が振り込まれた口座だからといって、残高の4分の3が当然に保護されるとは限りません。対象口座・範囲は差押債権目録に記載されています。
例えば、請求債権と執行費用の範囲が50万円で、命令の対象となる預金が12万円なら、給与の計算を流用して「3万円だけ」と見積もることはできません。これは預金に給与と同じ割合を使えないことを示す仮例であり、実際の回収額を決める例ではありません。ほかの差押えや銀行の相殺など、個別の事情も関わります。
通帳や入出金明細には、生活費に使うお金の入金日・入金元、現在の残高、家賃・公共料金等の引落予定日を付記します。別口座に移したり名義を変えたりして隠すのではなく、暮らしへの影響を資料で示すことが先です。
| 相談へ持参する記録 | 記入例・書き方 |
|---|---|
| 次の入金 | 給与等の入金元、予定日、金額 |
| 生活に使えるお金 | 現金と預金を分け、引き出せない額を記す |
| 直近の生活費 | 家賃、食費、医療費、通勤費、同居家族の負担 |
| 不足する時期と額 | 例えば「次の給与日前に家賃が支払えない」と日付で示す |
| 裏付け | 通帳、給与明細、賃貸借契約、受給証明、請求書 |
年金や生活保護費が振り込まれる口座についても、入金の性質と生活状況を伝えてください。裁判所の案内は、こうした口座への差押えで生活に著しい支障が生じる場合を、差押範囲変更の相談につながる例として挙げています。
4.生活費が不足するなら、取立て前に差押範囲変更を相談する
民事執行法153条には、本人と債権者の生活状況などを踏まえ、裁判所が差押命令の全部または一部を取り消す制度があります。申立先はその差押命令を出した裁判所です。生活に支障があることを電話で伝えるだけでは、申立てをしたことにはなりません。
- 担当係に事件番号を伝え、「生活費が不足するため差押範囲変更を申し立てたい」と話し、使う書式・提出方法・資料を聞く。
- 家計表、収入資料、通帳、家族構成、医療費などから、不足する理由と希望する変更範囲を書く。資料の対象期間は申立先の案内に従う。
- 債権者が勤務先や銀行から回収する前に動く。すでに取立てが済んでいるか、取立可能日はいつかを裁判所・弁護士へ伝えて相談する。
- 支払が迫っている場合は、裁判所の判断までの間に第三債務者の支払を禁止する措置も検討できるか、併せて相談する。
一般の給与の差押えでは、債務者に命令が送達されてから原則4週間、預金などでは原則1週間を経過すると債権者が取り立てることができます。養育費等の請求を含む給与差押えでは4週間の扱いから外れます。この期間は取立てに関する待機期間であり、相談を先延ばしにしてよい期間ではありません。実際の取立状況を自分の事件で調べてください。
範囲変更の申立てが認められるかは裁判所が判断します。申立てによる自動停止はなく、取立てを一時的に禁じるにも別の裁判所の判断が伴います。また、差押範囲が狭くなっても、借金そのものがその額だけ減る制度ではありません。
5.まだ差押命令ではない場合は、書類別の期限を優先する

図は、請求や裁判手続に関わる書類・機関のイメージです。勤務先の次に銀行へ進むなど、決まった順番や日数を示すものではありません。
貸金の強制執行では、確定判決、仮執行宣言付判決・支払督促、裁判上の和解調書などの「債務名義」が土台になります。公正証書については、一定額の金銭の支払等を目的とし、直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載・記録されたものなど、法定の条件があります。すべての公正証書だけで差押えができるわけではありません。
すでに債務名義がある事件では、督促や新たな訴訟を最初からやり直すとは限りません。また、仮差押えは別の保全手続です。「まだ判決を見ていないから何も起こらない」とは決めつけず、書類名で行動を選びます。
- 借入先の督促状・催告書:請求者、対象契約、金額、記載された期限を読み、支払えない額と入金予定を既存の返済先へ伝える。長く取引していない古い請求は、一部支払いや債務を認める返答の前に専門家へ相談する。
- 支払督促:送達から2週間以内の対応を急ぐ。仮執行宣言が付く前と後で扱いが違うため、支払督促が届いたときの対応で書類を分ける。最初の2週間を過ぎても仮執行宣言前なら異議を申し立てられるため、放置せず相談する。
- 訴状・呼出状:答弁書の提出期限と裁判期日を別々に書き留め、訴状への返答と期日への対応を読む。支払督促と同じ2週間の期限とは限らない。
督促から一括請求までを含む全体像は、借金の滞納後に届く書類と対応で扱っています。ここでは、差押先と生活費への影響を把握し、次の法的手続へつなげることを優先します。
6.法律相談には命令書と今月の生活費を持参する
相談予約では最初に「差押命令が届いている」「受け取った日」「給与か預金か」「家賃などの支払がいつ迫っているか」を伝えてください。命令書一式、元になった判決・和解調書、返済の領収書、給与明細と通帳を持参します。全資料が揃うまで待たず、不足分の入手先も相談時に聞きます。
裁判所の担当係には、その事件の書式や提出方法を尋ねられます。請求の争い方、範囲変更、今後の返済手続の選択は弁護士に相談する論点です。司法書士へ依頼する場合は、裁判書類の作成と代理業務を分け、その事件で担当できる範囲を聞いてください。
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今後の返済全体が続かないなら、差押えへの当面の対応と併せて、個人再生の条件や自己破産の手続と生活への影響も相談します。どの制度でも、相談・依頼だけで現在の執行が自動的に止まるわけではありません。
よくある質問
差押命令を開封しなければ、まだ効力はありませんか?
開封の有無で決まるものではありません。給与・預金の差押えは第三債務者への送達で効力が生じます。自分への送達日も取立時期に関わるため、封筒ごと保管し、届いた日を担当係へ伝えてください。
勤務先や銀行に頼めば差押えを外せますか?
勤務先や銀行は命令に従う立場です。生活費が足りないという事情だけで、その担当者が自由に解除できるものではありません。計算や対象口座の事実は各担当へ、範囲変更などの法的対応は発令裁判所と弁護士へ相談します。
債権者と分割払いの話ができれば、もう安心ですか?
話合いを始めたことと、差押命令が取り下げられたり停止されたりすることは別です。合意した内容、差押えの扱い、裁判所や第三債務者への連絡がどこまで済んだかを弁護士と確かめます。命令書がある状態で、自己判断で給与担当者や銀行に支払を止めさせないでください。
参考にした一次情報
- 民法152条:債務の承認と時効
- 民事執行法22・145・151〜155条:債権執行と給与等の保護
- 民事執行法施行令2条:給与等の月額基準
- 民事訴訟法391・393・396条:支払督促の異議
- 裁判所:債権執行(債務名義に基づく差押え)
- 裁判所:民事事件Q&A・差押範囲変更の案内
- 裁判所:支払督促
- 東京地方裁判所:給与差押えの第三債務者向け案内・計算表
- 法テラス:無料法律相談の利用の流れ
- 法テラス:無料法律相談・弁護士等費用の立替
参照日:2026年10月4日。金額の表は通常の月給に関する仮例です。届いた命令の内容、請求の種類、生活状況に応じた対応は、その書類を示して相談してください。

