長く返していない借金について請求が届いても、「5年以上たったから払わなくてよい」とは判断できません。時効が完成しているかは、返済期日、途中の支払いや約束、裁判の有無などで変わります。完成していた場合も、時効の利益を受ける意思を相手に示す「援用」が求められます。
まず、届いたものが貸金業者などの請求書か、裁判所の支払督促・訴状かを見分けてください。裁判所から届いた場合は、受取日と書類の期限を弁護士へ伝えることが先です。この記事では、年数のルールと、相談に持っていく日付・書類を順に説明します。
裁判所から届いた書類は、返済の記憶より先に期限を読む
同じ「督促」でも、債権者が送る請求書と、裁判所の支払督促は別のものです。封筒も捨てず、書類の表題、裁判所名、事件番号、受け取った日をメモしてください。
| 書類 | 読む箇所と対応 |
|---|---|
| 貸金業者・債権回収会社等の請求書 | 請求元、元の貸主、契約番号、請求額、支払期限を記録。書面を弁護士等に見せ、時効と請求内容を調べてもらいます。 |
| 支払督促 | 受け取ってから2週間以内に異議を申し立てないと、債権者の申立てにより仮執行宣言が付されることがあります。書類を持って直ちに相談します。 |
| 仮執行宣言付支払督促 | 受け取ってから2週間が督促異議の期間です。この段階では強制執行も可能になります。異議のほかに執行への対応も要するか、急いで弁護士へ相談します。 |
| 訴状・口頭弁論期日呼出状 | 答弁書の提出期限と裁判の期日を読みます。支払督促と同じ「一律2週間」ではありません。請求に対する答え方を期限前に相談します。 |
最初の支払督促は、2週間を過ぎたら直ちに異議が一切できなくなる仕組みではなく、仮執行宣言前なら異議を出せる場合があります。一方、仮執行宣言付支払督促には法律上の2週間の期間があります。日数が過ぎているように見えても、手続きを自己判断で諦めず、書類一式をそのまま弁護士へ見せてください。
訴状に答えず裁判にも出席しないと、相手の主張を認めたものとして判決が出ることがあります。時効に心当たりがあっても、裁判所が自動で扱ってくれるわけではありません。書類の読み方は借金の訴状が届いたときの対応と支払督促が届いたときの手順でも説明しています。
時効援用とは、時効による債務の消滅を主張すること
消滅時効は、一定期間にわたり権利が行使されない場合に、その権利を消滅させる制度です。ただし、期間が過ぎただけで請求への対応が済むわけではありません。民法145条では、当事者が援用しなければ、裁判所は時効によって裁判をすることができないとされています。
援用を検討するときは、「どの債権について、いつから、何年が経過したか」と「その間に時効へ影響する出来事がなかったか」を一組で調べます。相手に伝える内容や方法は、裁判になっているかどうかでも変わります。請求元へ一律の文例を送る前に、契約や取引の記録を弁護士等へ見せてください。
5年・10年は、何の日から数えるのか
現行の民法166条1項は、一般の債権について次の二つを定めています。特別な規定がない場合、どちらかの期間が先に満了することで時効の完成を判断します。5年と10年を足して15年待つ、という意味ではありません。
| 期間 | 数え始める時点 | 借金で調べること |
|---|---|---|
| 5年 | 債権者が権利を行使できると知った時 | 貸主が返済を求められることを知った時点。返済期日などを契約書や請求の記録で追います。 |
| 10年 | 権利を行使できる時 | 貸主が知ったかどうかとは別に、契約上いつ返済を求められるようになったかを調べます。 |
返済期日が決まった貸付けでは、その期日が基本の手掛かりになります。分割払いなら各回の返済期日、滞納などにより残額を一括で求められる契約なら、その条件と実際に条件が満たされた時点も関係します。「最後に借りた日」や「請求書が来なくなった日」を、そのまま起算点にすることはできません。
2020年4月1日より前の契約は、経過措置も調べる
改正民法の施行前に生じた債権の時効期間は、原則として旧法によります。ここには、債権が施行後に生じても、その原因となる契約などの法律行為が施行前に行われた場合も含まれます(平成29年法律第44号附則10条1項・4項)。返済期日が2020年4月以降というだけで、新しい5年・10年のルールを当てはめないでください。
旧法では、例えば個人や会社組織でない信用金庫等からの借入れは原則10年、借り手が商人の場合は5年となるなど、貸主・借主による違いがあります。契約書にある日付と当事者名を伝え、どのルールが適用されるかを弁護士等に判断してもらいます。
過去の判決や支払督促で、期間が変わる場合もある
貸主の請求を認める判決が確定したときは、時効が新たに進み、もとの期間が10年未満でも原則10年になります。確定判決と同じ効力を持つものにも民法169条が適用され、異議なく確定した仮執行宣言付支払督促もその例です。ただし、確定した時点でまだ返済期日が来ていない債権には、この10年への変更は適用されません。
以前の住所に裁判書類が届いていた心当たりや、給与・預金の差押えを受けたことがあれば、その事実も伝えてください。最後の返済からの年数だけでは、裁判後の時効は判断できません。
途中の請求・裁判・承認で、時効の進み方が変わる
「完成猶予」は、その理由がある間などは時効が完成しないこと。「更新」は、それまでの期間を引き継がず、新しく時効の期間が始まることです。時効が完成する前に、次のような出来事があったかを調べます。
| 出来事 | 時効への影響 |
|---|---|
| 裁判外の支払請求が「催告」に当たる | 催告の時から6か月は完成が猶予されます。その猶予中に催告を重ねても、さらに6か月ずつ延ばせるわけではありません。 |
| 裁判上の請求・支払督促など | 手続き中は完成が猶予されます。判決等で権利が確定すれば、手続きが終わった時から新たに進みます。権利が確定せずに終了した場合も、原則として終了から6か月は完成しません。 |
| 時効完成前の債務の承認 | 承認した時から新たに進みます。一部の返済や、債務を認めて返済を約束する行為が該当することがあります。 |
このほか、強制執行や仮差押え、書面による協議の合意なども影響します。古い出来事については改正法の経過措置も関係するため、最近の請求書だけでなく、過去の裁判書類や合意書も探してください。
督促の手紙が何度も届いたからといって、そのたびに必ず5年が最初から始まるわけではありません。反対に、長く連絡がなかったことだけで時効が完成したともいえません。届いた日、差出人、書類の中身を残すことが、両者を見分ける材料になります。
少額の支払いや電話での約束も、経緯を伝える
時効が完成する前の承認と、完成した後の承認は分けて考えます。完成後であっても、債務者が債権者に債務を認める行為をすると、完成を知らなかった場合を含め、その時効を援用できなくなることがあります。
ただし、誰が何を認めたか、どのような働きかけで支払ったかなど、具体的な事情も関係します。裁判所の公開裁判例にも、家族への執拗な請求などの事情から、支払後の援用を認めた例があります。支払いや約束があっただけで「もう絶対に無理」と決めつけないでください。
すでに一部を払ったり、電話で分割払いを申し出たりした場合は、その日時・金額・会話を弁護士へ伝えます。古い請求への新たな支払いや約束を急ぐ前に、その請求への対応を相談しましょう。現在の返済をこの記事だけで一律に止めたり、時効を待つために請求を放置したりする判断は避けてください。

相談に持っていくのは、契約・返済・請求の記録
借入先ごとに、次の項目を一枚のメモに書き出すと相談時に説明しやすくなります。記憶だけの日付には「およそ」、分からない欄には「不明」と付け、手元の資料にある日付と混ぜないようにします。
- 相手と契約:元の貸主、現在の請求元、契約番号、契約日を書きます。契約書、カードの利用明細、債権譲渡の通知を添えます。
- 返済期日と最後の支払い:返済予定表、通帳、振込明細から日付・金額を記録します。返済日と、本来払うはずだった期日は別の欄に書きます。
- その後のやり取り:請求書の受取日、電話やメールで伝えた内容、分割払いの合意日を記録します。家族が対応した場合は、誰が何をしたかも書きます。
- 裁判と差押え:書類の表題、裁判所名、事件番号、受取日、答弁書などの期限を書きます。判決、和解、支払督促、差押えの書類は一式を持参します。
資料が足りなくても予約を遅らせる理由にはなりません。「契約書はないが、請求書と通帳がある」「支払督促を受け取り、期限が近い」と、手元にあるものと期限を先に伝えましょう。記録の入手方法も相談できます。
相談では、援用できるかに加えて次の対応を決める

弁護士等には、①どの日付と法律で期間を数えるか、②承認や裁判がどのように影響するか、③援用する場合の相手・方法と裁判所へ出す書類、の三点を尋ねます。裁判書類が届いている場合は、予約の最初に伝えてください。借金問題を弁護士へ相談する際の準備も参考になります。
費用が心配なら、法テラスの無料法律相談・費用立替の案内で利用条件を調べられます。返済全体や家計も相談したい場合は、日本クレジットカウンセリング協会(JCCO)も窓口の一つです。
時効を援用できない場合も、収入と生活費に合う返済方法を相談できます。借金を返せないときの対処と、債務整理を相談する事務所の選び方では、別の対応を考える際の手掛かりを紹介しています。
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相談・依頼によって時効援用の成立などの結果が保証されるものではありません。依頼前に費用総額・支払方法・対応範囲の説明を受け、契約内容を読んで判断してください。
今日できることは、届いた書類と日付を相談先へ伝えること
請求書の表題を読み、受取日を書き、契約や返済の資料と一緒に保管してください。裁判所の書類があれば、その期限を先に伝えて相談します。時効を使えるかどうかは、記憶にある「何年前」だけで決めず、日付と記録をもとに判断してもらいましょう。
参照した法律・公的機関の資料
- e-Gov法令検索:民法(145条、147〜152条、166条、169条、平成29年法律第44号附則10条)
- e-Gov法令検索:民事訴訟法(159条、391条、393条、396条)
- 裁判所:支払督促
- 大津地方裁判所:答弁書の記載例・提出について
- 東京簡易裁判所2002年10月10日判決(完成後の支払いと援用に関する個別事例)
- 法テラス:債務、貸付 Q07
参照日:2026年9月29日。一般的な借金の消滅時効を扱っています。適用法、起算点、承認・裁判等の経緯によって結論が変わるため、個別の書類を弁護士等に示して相談してください。

